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【書評全文掲載】岡本正著『図書館のための災害復興法学入門 新しい防災教育と生活再建への知識』樹村房(評者:山崎栄一先生)

『図書館のための災害復興法学入門 新しい防災教育と生活再建への知識』

岡本正著

樹村房 2019年11月

109頁 1,500円(税別)

ISBN:978-4-88367-331-5

専門図書館協議会『専門図書館』(2020年5月号/第300号)に掲載された、関西大学社会安全学部教授の山崎栄一先生の書評について、山崎先生の御許可をいただき以下に全文を掲載させていただきます。山崎先生、本書のねらいと魅力を余すことなくご紹介いただきありがとうございます。

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本書は、これまで筆者が培ってきた災害復興法学のダイジェスト版かつ普及版である。本書には図書館という社会的インフラを活用した筆者の壮大な「災害復興法学普及計画」が描き出されている。

本書は三部から構成されているが、筆者の生活再建に向けられた関心がどのように移行していったのかを見てとることができる。

I部〔知る:災害復興法学と生活再建への知識の備え〕においては、本書をきっかけに読者が身につけておいて欲しいと筆者が考える「生活再建への知識」が提供されている。ここにいう知識とは、生活再建をサポートするさまざまな法や制度に関する知識である(1章)。災害後には、いろいろな困りごとが出てくるわけであるが、本書は5万5千件にのぼる無料法律相談のデータから災害後において被災者が抱える困りごとを抽出し分析を図るとともに、そういった困りごとを克服するための法や制度とのつながりを意識づけさせる構成となっている(2章)。

罹災証明書の発行を初めとするさまざまな生活再建への支援の仕組みが紹介されているが、最終的にはそれらの仕組みが法や制度に基づいているという事実に気づかされることになる(3・4・5章)

無論、災害直後にI部を読んでみたとしても、被災者がそれぞれの「生活再建ストーリー」を描くにあたってより現実味のある選択肢をイメージするための手がかりとなるだろう。

Ⅱ部〔伝える:被災者支援と図書館の役割〕においては、 「生活再建への知識」をいかにして被災者に浸透させていくのかについて筆者の提案が述べられている。

たしかに、生活再建の知識は被災者に役立つものであることには違いがない。ところが、実際には生活再建の知識が災害後においてなかなか被災者には伝わらないという現実に直面する(6章)。そこで、筆者が注目するのがタイトルにもある「図書館」の有している、情報と利用者を「結びつける」、情報コーディネーターという機能・役割である(7章)。

筆者は、災害後の図書館に、①復興情報アーカイブの作成、②図書館ニュースの発行、③生活再建情報コーナーの設置と復興まちづくりの拠点といった機能・役割を担わせようとしている(8 ・9 ・ 10章)。

Ⅲ部〔つくる:防災を自分ごとにする新しい教育の実践〕においては、図書館をベースにした「生活再建への知識の備えの防災教育」の展開方法について筆者の提案が述べられている。

ここにいう防災教育とは、図書館における生涯学習の一環として実践されるもので、具体的には①主権者教育、②法教育、③金融教育・消費者教育の三分野から派生した知識体系の普及にある。①~③の教育がそれぞれ生活再建への知識へと結びつけられて、「災害復興法学」の基幹を構成することになる。ここにいう、①は政治、②は法、③は経済との関わりを有していて、災害復興法学はまさに民主主義社会の市民にふさわしい生活再建のあり方を希求するという意味において、 「公民科教育」(1章にいう「市民性を育む防災教育」はその一環である)としての実践可能性を提示してくれている(11章)。

災害時の立場に応じて知識が身につけられるよう、市民向け〔「家計の防災」〕とプロ向け〔「復興新聞(図書館ニュース)をつくろう」〕それぞれのワークショップが実践例として紹介されており、そこでは、被災という事実が「自分ごと」として映し出されることになる(12・ 13章)。

さらに図書館に対して、防災コミュニティーの拠点としての機能・役割についても言及している。本書における、 「図書館の徹底活用」という筆者のスタンスが貫かれている(14章)。

このような防災教育の実践を通じて、あらかじめ、どのような生活再建の道筋が用意されているのかを知ることで、今まさに私たちが何をしなければならないのかを考えるきっかけを本書は提供してくれている。究極的にいえば、今のうちに課題を有している法や制度の改善を図ることにある。このような法や制度への関心は「被災者の主体性」の一つの現れであるといえる。それが、本書の最後に述べるところの災害からの「強靭性」=「レジリエンス」につながっているのである(15章)。

関西大学社会安全学部

山崎栄一

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本書『図書館のための災害復興法学入門 新しい防災教育と生活再建への知識』の目次はこちらでご確認ください(樹村房公式ページ)。本書は、5章ずつの3部構成、全15章からできています。それぞれが数ページで、図表を交えて読みやすい語り口と分量にしております。3つある部の冒頭には、グラフィク・レコーディング等の専門家・第一人者である、グラフィッカーの玉有朋子先生による素敵なまとめグラフィックを見開きで掲載しています。ぜひお楽しみください。