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【講演】(日本災害看護学会)「教育講演2 災害復興法学のすすめ:災害看護学および看護教育過程における生活再建法制度の知識習得の必須性」

一般社団法人日本災害看護学会 第20回 年次大会(2018年8月10日-11日・於 神戸国際会議場)教育講演2

演者:岡本正「 災害復興法学のすすめ:災害看護学および看護教育過程における生活再建法制度の知識習得の必須性」

座長:石井美恵子

 

 

(抄録)

1 災害復興法学とは

災害復興法学とは、東日本大震災(1年で4万件)や熊本地震(1年で1万2千件)などにおいて、災害後に弁護士が実施した被災者無料法律相談情報(リーガル・ニーズ)を分析して、現行法制度の課題を発見し、課題を克服すべく政策提言と法改正を実施してきた軌跡をまとめた法学・公共政策学である。また、復興政策の軌跡をまとめ、そこから得られた知見を、官民の危機管理、事業継続マネジメント、防災教育に還元することを目的としている。

2 生活再建の知識の備えの防災教育

被災者のリーガル・ニーズを分析することで、「住まい、お金、支払い、契約、支援、家族など、災害時における被災者の社会生活上の悩み」が「視覚化」された。これにより、災害時に活動する専門職にとっては、被災者へ寄り添うための知識・コミュニケーション円滑化のための知識を事前に習得できることになる。また、リーガル・ニーズに応える「生活再建のための法制度や知識」についても、最低限を事前に体系的に習得しておくことで、被災者の悩みに応え、別の専門職へ誘導するコーディネート活動などもできるようになる。

3 災害看護職が生活再建支援制度を学ぶことの優位性・重要性

現場に第一に臨場し、そこから中長期にわたり被災者支援や避難所運営に関わる看護専門職においてこそ、これらの知識と経験が生かされることになるはずである。とくに、被災者の「健康」を考えたとき、肉体的健康や精神的健康にとどまらず、社会上の健康(social well-being)について支援できてこそ、災害看護や福祉を担う専門家がその職責を全うすることになるものと考えられる(WHO憲章前文参照)。この社会上の健康を助ける知識の習得・防災教育こそが、被災者の悩みについて事前に把握し、最低限の支援制度・社会資源の存在について、認識しておくことに他ならない。今後の看護教育課程において、かかる分野が必修化されるべきことを提案する。

4 講演項目の概要

看護過程等で実施してほしい教育研修プログラムの概要を提示するものである。具体的には、概ね以下の項目について簡単な解説を行う。

(1) 災害により被災するとはどういうことか

住宅等ローンの支払困難、賃貸借契約を巡る紛争、施設損壊による損害賠償紛争、行政支援を求める声と制度の情報提供、行方不明者・相続をめぐる相談などを東日本大震災4万件、熊本地震1万2千件のデータによって視覚的に把握する。

(2) 行政やメディアだけでは生活再建情報が伝わらないこと

行政やメディアの一方的情報提供では情報が被災者に届かない。未知の情報はインターネット検索もできない。専門職のカウンセリングの中でこそ情報整理提供を果たせるメカニズムが存在する。

(3) 被災者のリーガル・ニーズ・データ

リーガル・ニーズが、地震被害を受けた都市、津波で壊滅した地域、など地域に応じて異なる傾向を示すことを把握し、被災者のニーズについてより視覚的・立体的に把握することで、「被災者の真の悩み」について把握する。

(4) 生活再建のために役立つ制度の紹介

罹災証明書、被災者生活再建支援金、自然災害債務整理ガイドライン、災害弔慰金など、被災者にとって共通して活用できる(実績のある)制度を、被災者のリーガル・ニーズに対応する形で体系的に紹介することで、コーディネートを行えるだけの知識を習得する。

(5) 災害復興と生活再建分野の法制度研修の必修化の提言

看護教育一般・保健分野・福祉分野・災害分野の教育・研修課程に取り込み、プログラムを実施する。

(主要参考文献)
岡本正『災害復興法学の体系』(勁草書房 2018年)
岡本正『災害復興法学』(慶應義塾大学出版会 2014年)
岡本正『災害復興法学2』(慶應義塾大学出版会 2018年)