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【期間限定掲載コラム】[速報版]復興特区法改正による用地取得加速化と法案のポイント

1 はじめに~与野党による同日法案提出

3月25日、自民党・公明党は「東日本大震災復興特別区域法の一部を改正する法律案」(以下「自公案」という)を議員立法として衆議院に提出した。また、同日、民主党・生活の党(筆頭提出者)・みんなの党・結いの党も「東日本大震災復興特別区域法の一部を改正する法律案」(以下「4党案」という)を議員立法として衆議院に提出した。

与野党が同じ日に東日本大震災復興特別区域法(以下「復興特区法」という)の改正法案を提出するに至ったわけだが、本稿では、

与野党の法案の共通点と課題は何か?

本来あるべき法案の姿は何か?

に絞って、東日本大震災の現場のリーガル・ニーズに基づいて、若干の検討を試みる。なお、本稿は、既に公開・リリースされた情報の中での検討結果の速報であり、今後詳細が明らかになるにつれ、見解が訂正・修正される可能性がある。

 

2 自公案の概要

形式上は「復興特区法」の改正案であるが、その内実は、「土地収用法」の規制緩和や特別措置を設けるものである。なぜ復興特区法の改正という建付けかというと、立法技術上の問題で整理がしやすいからであるが、詳細な理由はここでは省略する。

 

①          「土地収用法の事業認定手続」の迅速化

現行法では3か月の努力義務であるが、「2か月」に短縮し、業務の迅速化を法律で定めた。

 

②          「土地収用法の決済手続」の簡素化

窓口に申請する際に必ず必要になっていた「土地調書」などの資料を省略できることになった。特に、土地調書は、不在者や相続人など、土地の権利関係を綿密に調査して作成しなければならないものであり、現行の土地収用委員会の運用方針に従うと、莫大な時間とマンパワーを必要とする。これこそが、復興用地取得の最大のボトルネックであった。100名以上の相続人や明治時代の名義人の土地など、どうひっくり返っても先に進めない土地が数千という単位で存在するのだ。

その「土地調書」を受け付け段階で『不要』としたことは、入り口要件を劇的に緩和したということになる。

 

③          「土地収用法の緊急使用による工事着工」の前倒し

土地収用法には「緊急使用」という収用前に着工できる制度がある。現行法では、簡単に言えば、「6か月後にちゃんと権利調査が終わって書類がそろえば先にやってよい」という制度になっている。それを、「1年後になってもいい」と緩和したものである。これにより、緊急使用の申請をしやすくするというものである。

ただ、自公案の実際の条文を概観する限りにおいては、緊急使用許可後に行わなければならない「所有者への通知」ほかの手続要件が緩和されていない。したがって、緊急使用後には、現行制度に従う限りは、結局のところ、膨大な調査をしなければならないという恐れがある。必要なマンパワーと時間は、結局トータルで同じ、という可能性が否定できない。この点を解消しない限りは、加速化は望めないはずだ。

 

④          「収用適格事業」の追加

現行の土地収用法では、被災地における高台移転事業などの実施に際し、収用適格事業とするには50戸以上という制限があるところを、5~49戸に対象を拡充するものである。これにより、任意交渉しか途がなかった防集などの高台移転事業を、収用手続により進めるという選択肢ができたことになる。

 

[図1] 自公案の概要(クリック拡大)

与党ぽんちえ

 

 

 

 

 

 

 

 

3 4党案の概要

4党案についても、立法技術上の建付けは「復興特区法」の改正案である。概要は次のとおりである。

①          「土地収用法の緊急使用の許可要件」の緩和を明記

現行の土地収用法の緊急使用の許可には、「災害を防止することが困難となり、その他公共の利益に著しく支障を及ぼす虞があるとき」という厳しい要件になっている。そうなると、高台移転事業のすべてが、必ずこの要件を満たすとは限らない。土地収用委員会の判断次第では、着工許可が出ない可能性がある。

そこで、「東日本大震災からの復興を円滑かつ迅速に推進することが困難」場合には、緊急使用を許可できるようにしている。これならば緊急使用許可は出やすい。

 

②          「土地収用法の緊急使用の期間」の更新を許容

すでに述べた通り、現行の土地収用法の緊急使用は6か月に限られる。したがって、現場としては、「6か月後には権利関係の調査が終わる」という見込みがないと、申請に躊躇してしまうだろう。結局、準備してから緊急使用申請をするしかないというのが現場感覚である。そこで、この6か月を更新できるようにした。これにより、着工後の権利調査に時間がかかっても、更新することで、緊急使用期間を延長し、工事を続けることができる。

 

③          「収用適格事業」の追加

現行の土地収用法では、被災地における高台移転事業などの実施に際し、収用適格事業とするには50戸以上という制限がある。これを、5~49戸に対象を拡充するものである。既に述べた自公案と同様である。

 

[図2]4党案概要(クリック拡大)

民主ポンチ絵

 

 

 

 

 

 

 

 

4 あるべき加速化の法案とは何か

以上のとおり、かなり乱暴ではあるが、ざっと与野党案を概観した。こうしてみると、お気づきのように、その主たる目的と、今後の課題は、ともに共通している。

改めて整理すると、以下のとおりである。

【加速化措置の共通点】

土地収用法の緊急使用スキームを利用する、小規模な高台移転事業を収用対象とする、という点で共通している

【今後の課題の共通点】

緊急使用の手続要件をより簡素化・迅速化しなければ、不在者調査や相続関係の確定、任意売却交渉、などの手続からは解放されず、最終的なトータルの作業は変化しない。結局、マンパワー不足が解消されない。莫大な収用準備の期間を短縮できないおそれ。

(※付言するに、自公案がもし緊急使用後の通知を登記簿所有者だけでよいとするのならそれは憲法違反になるおそれが高い)

 

5 これで終わりではない 抜本的特例法の構築を

(1)  与野党法案の一本化

すでに各種報道にあるように、3月25日提出の与野党の「東日本大震災復興特別区域法の一部を改正する法律案」については、一本化の動きがある。共通項も課題も同じとなれば、超党派で復興に向けてアイディアを出し合うことで、よりよい法案ができるはずであり、大いに期待したい。

 

(2)  日本弁護士連合会意見書や岩手県・岩手弁護士会共同提案の内容反映

日本弁護士連合会の災害対策本部は、被災地からの綿密なヒアリングによる立法事実の積み重ねにより、土地収用法の緊急使用という厳しい要件の制度に頼るのではなく、抜本的な復興加速化法案の創設を提言している。これを実現する方法は、やはり「復興特区法」の一部改正ということになろう。この骨子は、次のとおりであり、岩手県・岩手弁護士会共同提案などの現場のニーズに正面から応える内容となっている。

①          特例措置の対象地域は、東日本大震災復興特別区域法(以下「復興特区法」という。)の対象地域に限られること。

②          特例措置の対象事業は、復興特区法に基づく復興整備協議会が同意した被災者の生活再建に関し高い公共性を有する復興整備事業に限定されること。

③          事業の公共性の認定に先立って、円滑かつ迅速な復興に支障のない限度で土地所有者等の調査及び通知を行い、事前説明会や復興整備協議会を開催する等、被災者たる住民が意見を述べる機会を十分に確保すること。

④          復興整備協議会の構成員に、学識経験者及び住民の代表者を加えること。

⑤          復興整備協議会が同意した事業に用いられる土地の区域の確定及び補償額の決定については、収用委員会等の都道府県に設置された行政委員会又は新たに国若しくは被災三県に設置する独立性の高い第三者機関(以下「行政委員会等」という。)が行うこと。

⑥          行政委員会等が決定した補償見積額の総額を事業者が予納した場合、行政委員会等は、事業者が土地を使用し工事に着工することを許可することができるものとすること。

⑦          行政委員会等は、補償見積額の総額を決定した後、一筆の土地ごとの補償額を決定し、事業者が補償見積額との差額を納付した後、土地の取得決定を行うこと。これにより、事業者は、初めて土地の所有権を取得するものとすること。

⑧          行政委員会等は、一筆の土地につき土地所有者ごとの個別の補償額を確定し、6か月程度の相当な期間内に、土地所有者の捜索及び補償金の支払い又は供託をすること。

⑨          行政委員会等による土地の区域の確定、補償総額決定、個別補償額決定などの各段階において、適切な不服申立ての機会が設けられること。

 

[図3]日弁連案の概要(クリック拡大)

にちべんポンチ絵

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)  さらなる法案提出の動き

民主党は、さらに抜本的な「東日本大震災復興特別区域法の一部を改正する法律案」の提出を予定している。この法案は、公開情報を頼りにまとめると、①新たに用地委員会という組織を作り事業を認定する、②土地を取得、使用しようとする県や市町村は、あらかじめ妥当な金額を納めて委員会の許可を得ることで工事に着手できる、とする立法である。やはり「早期着工」がポイントであろう。また、収用委員会という組織や、妥当な金額の納付という制度があるので、これによって手続面での憲法問題もクリアするものと読める。

日本弁護士連合会の提言や被災地のニーズを反映するものである。

既に、緊急使用の特例法案だけでは、課題があることが分かってきた以上、当該法案を含めた一本化、あるいは追加立法措置が求められるのではないだろうか。

 

続きはこちら【期間限定掲載コラム】その2 法案一本化のポイント

http://www.law-okamoto.jp/column/999.html