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【寄稿】(助けあいジャパン/いまできること)「いまできコラム:法律を味方に!法の知識があなたを救う 〜災害復興法学で生活再建のソナエを〜」

岡本正「いまできコラム:法律を味方に!法の知識があなたを救う 〜災害復興法学で生活再建のソナエを〜」(一般社団法人助けあいジャパン『平成30年7月豪雨・いまできること』コラム4 2019年2月5日)

「助けあいジャパン」の「平成30年7月豪雨」特設サイト「いまできること」にコラムを寄稿しました。被災者生活再建支援法の改正により、災害ケースマネジメントを実現するよう訴える「半壊の涙、境界線の明暗」という課題について解説しました。

また、災害復興法学の取り組みをベースに、「被災者の生活を再建するための制度知識の備え」を防災教育として実施することの重要性を説きました。「生活のソナエ袋」や「被災後の生活再建のてびき」など、学習ツール、支援ツール、防災グッズについても、即戦力となる具体的なものを紹介しました。

 

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平成30年7月豪雨で多くの方が住まいを失いました。住んでいた地域への帰還に至らない方も多くいます。日本には、被災者の「生活の再建」を助ける法律や制度があり、予算が組まれ、運用されています。たとえば、大災害で自宅が全壊等した場合に支給される「被災者生活再建支援金」(被災者生活再建支援法)、住宅ローン等の支払減免制度である「自然災害被災者債務整理ガイドライン」、建設や借上げによる仮設住宅の供給(災害救助法)などが主な例です。

 

しかし、法制度も万全ではありません。被災者のニーズに応えるべく、法律を柔軟に運用し、時には法律を改正していく必要もあるのです。私は東日本大震災以降の法制度改善の軌跡を「災害復興法学」として記録伝承をすることを目指しています。ここでは、平成30年7月豪雨において顕著に現れている問題を2つ解説したいと思います。

1つ目は「半壊の涙、境界線の明暗」という問題です。被災者生活再建支援金の支給根拠となっている被災者生活再建支援法は「同一市町村で全壊住家が10世帯ある場合」など、大規模災害の場合にだけ適用されます。となりの市町村の全壊住家が「1世帯」であれば、その市町村には法律が適用されないのです。同じ災害でも「境界線の明暗」があることになります。ただし、平成30年7月豪雨災害では、広島、岡山、愛媛では県単位で適用されていますので、内閣府防災担当や自治体のウェブサイトを確認していただければと思います。

 

また、法適用がされたとしても、支援金を実際に受け取ることができる世帯は「全壊」「大規模半壊」「半壊住宅をやむを得ず解体した場合」「長期避難世帯」に限られます。単なる「半壊」や「一部損壊」の場合等は支援金は支払われません。まさに「半壊の涙」がそこにあります。

2つ目は、仮設住宅入居期間の問題です。災害救助法の通常の運用では、仮設住宅の入居期限は、建設基準法が定める仮設建築物設置期間である「2年」以内としています。しかし、地域によっては、砂防ダムの建設や河川整備などに数年単位の長期間を要し、その間地域に帰還できないケースがあります。それでも、「2年」の期限のままであるとすれば、仮設住宅退去を余儀なくされながら、帰還もできないという事態を招くことが確実です。

平成30年7月豪雨は「特定非常災害」となっており、特例により仮設住宅入居期間を2年以上に延長することも可能です。今後、延長措置がなされるかどうか注視する必要があります。もちろん、特定非常災害ではない災害でも同様の問題はおきます。たとえば平成29年の九州北部豪雨ではこの問題が顕在化してきています。入居期間を建築基準法の規定に依拠することの合理性や、建築基準法それ自体の見直しの検討も必要だと思われます。

 

最後にとても重要なことをお話しします。被災者が法制度の適用を受け、支援を受けるには、行政や金融機関などに制度の利用を申請しなければなりません。これを「申請主義」と呼んでおり、主な行政サービスを受ける場合の原則になっています。つまり、支援制度がいくら存在していても、それを知らずにいる場合には、支援を受けることができないということです。期間制限のある制度であれば、支援を受ける機会を失いかねません。

弁護士らは被災者に接した場合には、現在使えそうな支援制度をできるかぎり情報提供することに務めています。しかし、弁護士の相談だけでは限界があります。そこで、メディア、ボランティア、企業、行政職員、あらゆる分野の支援者の方は、被災者のために使える制度があるかもしれない、という視点で、被災した方に接し、積極的に情報提供するようにしてください。西日本豪雨の被災地の都道府県「弁護士会」や、県市町村が、支援のための情報提供チラシやまとめのウェブページを作っています。ウェブサイトや行政窓口へ誘導する、チラシを携えて被災地へ向かう等の情報提供に務めるようにしていただけたらと願っています。

私自身は、「生活再建のための法制度」を、あらかじめ防災教育により学び、「知識の備え」とすることを推進しています。たとえば、『被災後の生活再建のてびき』というパンフレットや『生活のソナエ袋』という防災グッズを監修・作成し、行政機関、支援団体、企業防災、地域防災などで活用いただいております。
「知識の備え」も、防災教育として不可欠になるはずです。それは、被災地の声を未来に繋ぐことにもなるのです。