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【コラム】法律家を志望する若者たちへ 特別講演会「公務員弁護士の実際とキャリアパス」で現役を含む7名の組織内弁護士経験者が語る

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6月12日、慶應義塾大学(三田キャンパス)において、行政機関や国立大学などパブリックセクターに勤務する「組織内弁護士」とその経験者らが、集まった50名の法科大学院生らを相手に、特別講演会「公務員弁護士の実際とキャリアパス」を開催した。

 

この企画は、慶應義塾大学大学法科大学院と「日本組織内弁護士協会」(JILA‘ジャイラ’)の第4部会との共催。JILAは、企業や行政組織等にする弁護士らをメンバーに組織された任意団体で、現在の会員数は1000名を超えている。その中で「第4部会」は、行政庁・国立大学等・研究機関等のパブリックセクターに、法曹有資格者として勤務する弁護士の集まる部会だ。以下パブリックセクターに勤務する(していた)法曹有資格者をまとめて「公務員弁護士」と呼ぶことにする。

 

JILAは、

 

「社会の隅々にまで普く法の支配を」

 

という理念のもと、組織内弁護士の普及促進のための様々な活動を行うことにより、社会正義の実現と社会全体の利益の増進に寄与すること等を目的として活動している任意団体だ。

 

民間企業の組織内弁護士は現在約1300名(JILA調べ)。

国の組織内弁護士は、入れ替わりながらも常時150名ほどと言われている。ほぼすべての省庁にポストがあると考えてよいだろう。

自治体の組織内弁護士は、5月時点で、73自治体に103名が勤務している(日本弁護士連合会調べ)。10年前は1桁しかいなかったことを考えると大きな躍進といえるのではないだろうか。

 

慶應義塾大学法科大学院委員長の片山直也教授は、冒頭挨拶にて、集まった学生らに対して、昨今の法曹志望者の減少など、法科大学院が突きつけられた厳しい現実を受け止めながらも、若い世代に法律を学ぶ意義、そして法律家が活躍できる新しいフィールドがパブリックセクターに広がっていることを実感してほしいとのメッセージを発した。

 

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7名の登壇者らが、それぞれ「公務員弁護士」となったきっかけや、その後のキャリアパスについて熱く語った。共通しているのは「法曹としての経験はどんなフィールドでも順応できる」ということだった。

 

 

弁護士の仕事といえば法務部門における組織のブレーキ役のようなイメージを持つ者も多い。現に弁護士の職務と価値をその分野に見出すことは正しい。しかし、それだけではない。

 

 

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「法律や制度を作る」

 

弁護士は法律を解釈するだけが仕事ではないことに気づく。多くの弁護士はいったん法律事務所に勤務し、そこから公募などを通じて国などの組織で役職に就く。専門性を期待され、即戦力の課長補佐級の官職になることが通常だ。ここで弁護士経験が活きる。今までは法律の解釈の場面で、法律の限界ラインを意識して仕事をしていたが、今度はその限界ラインを見直す作業をするわけである。現場の実務を知っていれば、本来おかれるべきラインを、規制緩和・規制強化の両面から考察できる。活きた法律を作り上げることに役立てることができる。

 

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 「他分野との連携の核に」

 

大学や研究機関、さらには国でも国家戦略や行財政改革分野に勤務する弁護士も増えてきた。ここで重要となるのがあらゆるセクター、ステークホルダーとの連携、あるいは相互間の調整である。弁護士は1つの事件で特定の立場で活動しており、一見するとマルチな調整や連携は不得手のように思える。しかし、弁護士は多くの法律相談や事実調査経験を通じ、すでに相当の立場の人間と触れ合っている場合がある。時にはまったく逆の立場のクライアントの法廷に立つこともしばしばだ。その能力を、今度は1つの課題の解決のために、調整・連携の核となるべくして活用する。新たな知見とアイディアを入れ込むために活用する。一つ一つの作業を丁寧に熟せば、むしろ大いにその経験との力を発揮するのが法律家ではないだろうか。

 

「公務員弁護士」はまだまだ絶対数としては少ない。司法制度改革の中で即戦力として多くの分野での活動が期待された法曹人材が、さらにフィールドを開拓し、パイオニアとなることを願ってやまない。

 

 

(登壇者一覧・順不同・敬称略)

jila4岡本正/岡本正総合法律事務所、日本組織内弁護士協会理事・第4部会部会長、内閣府行政刷新会議事務局(2009-2011)

伊藤淳/金融庁検査局総務課(2013-現在)、日本組織内弁護士協会第4部会所属、財務省福岡財務支局(2010-2013)

渋谷武宏/アンダーソン・毛利・友常法律事務所、日本組織内弁護士協会理事・第4部会副部会長、財務省関東財務局証券取引等監視官部門(2006-2008)

 

幸村俊哉/東京丸の内法律事務所、日本組織内弁護士協会監事・第4部会所属、金融再生委員会事務局金融危機管理課(1999-2000)

上島正道/西村あさひ法律事務所、日本組織内弁護士協会第4部会所属、金融庁総務企画局市場課専門官(2011-2014)

高木侑子/京都大学産官学連携本部(2013-現在)、日本組織内弁護士協会第4部会所属

坂本由加里/GT東京法律事務所、日本組織内弁護士協会第4部会所属、金融庁検査局総務課(2012-2014)

 

慶應義塾大学ウェブサイトでも報告されています。

シンポジウム『公務員弁護士の実際とキャリアパス』を開催しました