活動実績

【緊急提言】災害救助法の徹底活用について(平成30年7月豪雨)

被災された方々に対して衷心よりお見舞いを申し上げます。復旧・復興支援に従事されている方々へ心より敬意を表します。「平成30年7月豪雨」につき有志で提言を取りまとめました。本来,持参して交付すべきところですが,取り急ぎ主な市町村につきましてファックスにてお届けしています。

塩崎賢明,山崎栄一,神原咲子,岡本 正,田中健一,津久井進

【連絡先】兵庫県西宮市甲風園1丁目8番1号 ゆとり生活館AMIS 5階 〒662-0832 弁護士法人芦屋西宮市民法律事務所内 電話 0798-68-3161 FAX 0798-68-3162

【FAQ例】
・過去の被災自治体の特別基準の水準(東日本大震災,広島土砂災害,熊本地震には,よい先例が多い)に合わせるよう求めるのが簡便かつ合理的。
・特別基準の先例はインターネット等では検索できないものが多いため,先例を持つ自治体に問い合わせるのが早道。
・新規事項については,①必要性,②費用概算を明示する。内閣府や県は現場の状況を把握していないので,現場の差し迫った状況・ニーズの報告(説得)がポイント。
・費用は,根拠が明瞭であれば必ずしも見積もりは不要。見積書も概算で足りる。
・内閣府や県の応援が来ている場合は,介在役を依頼するのが現実的で有用。
・県への申し出は,簡単な事務連絡のファックス等でよいとされている(様式不問)。
・災害救助費の支払いは,(県の払い出し事務が調っていればそれを優先してよいが,)多くの場合は,市町村において払い出して後日清算する。県に問い合わせても返答がない場合がままあるので,市町村において先行して負担するスキームを早期に確立することがポイント。

[緊急提言]災害救助法の徹底活用等について

(平成30年7月15日)

 

緊急提言「災害救助法の徹底活用等について」(PDF)

 

平成30年7月豪雨 被災自治体 災害救助法担当係 御中

平成30年7月豪雨による甚大な被害につき,被災者及び被災地の皆様に心よりお見舞い申し上げます。私たちは災害救助の研究をして参りました。塩崎(神戸大学名誉教授)は都市計画学,山崎(関西大学社会安全学部教授)は災害法制,神原(高知県立大学教授)は災害看護学,岡本(弁護士・法学博士・慶応義塾大学講師)は災害復興法学の視点から,田中(県職員・神戸大学大学院)は災害救助実務,津久井(弁護士)は災害法実務に携わった経験に基づき,災害救助の効果的な活用を呼び掛けております。塩崎・山崎・岡本は避難所・避難生活学会に所属し,山崎・田中・津久井・岡本は,災害関連学会をはじめとする各種研究機関等で災害救助法等の災害法制の改善に関する研究や活動に取り組んでまいりました。平成30年7月豪雨においては,現場での避難所運営・被災者法律相談・自治体政策支援などに取り組んでいるところです。

自然災害を回避することはできませんが,災害後に人間の英知を結集して被災者を救うことはできます。それを制度化したのが災害救助法であり,これを徹底活用することで,市民の生命・生活を守ることができ,地方自治も維持することができるものと確信しております。

一刻も早く万全の救助・支援が実施されるべく,以下の緊急提言をとりまとめましたので,現在,被災地で災害救助実務に携わっておられる全ての方にご参考にしていただければ幸いです。

 

1 災害救助法の徹底活用を 

災害救助法は,被災者を救助する方法を幅広く定め,地方自治体に広範な権限を与え,現場に即して弾力的に運用できる仕組みになっています。東日本大震災を受けて改正された災害対策基本法でも,被災者の生命及び身体の保護を最優先すること(災害対策基本法2条の2第4号),ならびに被災者の個別的な事情を踏まえた迅速かつ適切な援護をすること(災害対策基本法2条の2第5号)が明記され,被災者は手厚く保護されるとしています。災害救助法を有効に活用すれば,多くの生命が救われ,被災者の不安も劇的に改善されます。
被災地の自治体・首長においては,自ら能動的に,必要な物品を購入・収集し,必要な人材の雇い入れ・協力依頼・従事命令を行い,必要なあらゆる手立てを講じることによって,救助を実施する責務があり,その権限が付与されています。これを徹底することが,災害救助法の徹底活用にほかなりません。

内閣府告示で明示された一般基準の範囲を超える救助について,一般基準の枠にとらわれて硬直的な対応をせず,被災状況に合わせ現代社会に適応した救助となるよう,積極的に特別基準(災害救助法施行令3条2項)の運用を図ってください。さらに,被害の実情に照らして必要があれば,柔軟な発想をもって救助方法を創意工夫し,被災者の救助に当たられることを切に望みます。
被災自治体においては,被災者の置かれた状況と救助の必要性に鑑み,躊躇することなく積極的に政府(内閣府防災担当等)に申し入れるようになさって下さい。

救助の執行に当たる市町村において,不安・懸念なく処理できるように仕組みを確立することも重要です。県においては,市町村に対する運用範囲の説明を十分行い,市町村が困ったときにすぐ相談できる災害救助のサポート体制を整えて下さい。併せて,国に対し,各県の執行状況を把握して情報共有できるサポート体制の構築を求めて下さい。

 

2 避難所改善 ~ ベッド,食品,水,医療の迅速な供給を 

今回の豪雨では,1万2000人に及ぶ数多くの被災者が避難していますが,避難所における悪環境下の生活を余儀なくされ,心身の疲労が蓄積し,災害関連死に至ることが懸念されます。とくに災害関連死ゼロを目指すためには,夏対策としての冷房設備の設置にとどまらず,特に寝食排泄といった生命維持に直結する場面で,簡易ベッド(全被災者への段ボールベッドの配備),トイレ(災害時要配慮者専用トイレの導入)・温かく,栄養バランスの取れた食事,適度な運動,地域住民によるストレスの少ない安心安全な生活が不可欠です。

過去の大水害(例えば「平成26年広島土砂災害」や「平成27年東日本豪雨災害」)では,マットレス等による雑魚寝が続いて体調不良や生活不活発となり,深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)が多く見つかりました。一方,段ボールベッドなどの簡易ベッドを導入した避難所では深部静脈血栓症の頻度が減少するという有意なデータが得られています(平成30年7月7日「避難所・避難生活学会からの緊急提言」)。

さらに,被災者の生存を確保するためには,十分な食料,水,医療が必要で,徹底した救援・救助活動を行う必要があります。災害対策基本法では「‥当該避難所に係る必要な安全性及び良好な居住性の確保,当該避難所における食糧,衣料,医薬品その他の生活関連物資の配布及び保健医療サービスの提供その他避難所に滞在する被災者の生活環境の整備に必要な措置を講ずるよう努めなければならない」とされています(第86条の6)。

これまでの大災害でも食品供与等については弾力的に災害救助の特別基準が設けられてきました。低レベルの食品供与を改め,現代生活の食事水準を考慮して一定の栄養が確保できるよう注意を払い,一般基準にとらわれることのないようご留意下さい。

食品,水,医療の輸送についても,別途,輸送費及び賃金職員等の雇上費が支出でき,第三者に救助業務従事の命令を発出することもできます。一人ひとりの被災者まで行き渡っていない状況にありますが,物資の輸送等業務については,民間事業者等への委託も可能ですから,たとえば,迅速な必要量分析と同時に,道路事情等を鑑みて大手流通業者のバイク部隊の協力を得たり,ボランティアと連携して物資の仕分けを行うなどの手段が有効です。熊本地震における益城町,昨年の九州北部豪雨の際の朝倉市でも運用実績があります。被災した家屋等で居住している在宅被災者の増加も予想されるところ,在宅被災者への弁当等の移送等も可能です。被災者への支援物資等の供給は被災者の生存に直結する救助ですので,全国各地からの応援はもちろん,あらゆる輸送手段や従事命令の活用をして,必要なものを,必要なだけ,必要な人に一刻も早く届けられるよう措置を講じて下さい。
医療・保健・福祉についても雇上費が支出できますので,これを活用し,心身ともに健康な暮らし,被災者に寄り添い,心身のケア等にも配慮して下さい。

 

3 避難所の多様性の確保を 

避難所の確保について,学校や公民館などの公的施設の使用が一般的ですが,旅館,ホテル等の民間施設を借り上げて利用することができます。内閣府防災担当による「災害救助事務取扱要領」でも,特に避難が長期化するときの要配慮者の避難先としての活用が望まれるとしています。旅館などの借り上げの費用は東日本大震災における特別基準は一人一日5000円でしたが,この金額は地域の実情に応じて協議によって引き上げることも可能です。

避難所は,被災地の市町村内には限定されず,県内の他の市町村への受け入れもできますし,他県に受け入れを求めることもできます。なお,求められた側は拒否できません(災害対策基本法第86条の8,第86条の9)。他自治体の避難所に被災者を送り出すときの輸送費は手当てされますし,バス会社に運送の指示や運転手への従事命令を出すこともできます(災害対策基本法第86条の14,災害救助法第7条)。
また,取り急ぎの避難場所として,屋外で避難生活を送れるようにテントの供与を行うことも考えられます。海外での災害に即座に800張のテントを提供したNGO(ピース・ウィンズ・ジャパン)もあり,NGOとの積極的な連携も検討するのが有効と考えられます。

 

4 在宅被災者の支援を 

避難所に滞在せず,様々な理由から自宅やその周辺で避難生活を送っている被災者は,避難所にいないことから避難人数として考慮されず,食品,水,日用品の供与や保健医療サービスの提供が受けられないまま放置され健康を損ねたり,あるいは,重要な情報が届かないおそれがあります。災害対策基本法第86条の7ではこうした在宅被災者の生活環境の整備に必要な措置を講ずるよう明記していますので,避難所滞在者と同様の災害救助を行うよう留意して下さい。東日本大震災では,在宅被災者のサポートについて早期にNPOやNGOと連携を図ることが有効だったので,ご検討下さい。

 

5 泥出し作業の専門職業委託を

被災地では,浸水に伴って大量の泥が流入したため,泥の掻き出し等が必要です。ボランティアによる泥出し作業も始まっていますが,災害直後の危険な状況にある場所等で一般ボランティアに従事してもらうことは安全ではありませんし,倒れた家財が重かったり泥出しの範囲は相当広範囲にわたるためボランティアだけでは物理的にも限界があります。人でだけではなく,専用の道具や機器も必要です。防塵のための高機能マスクの配布も不可欠です。

災害によって運ばれた土石等の障害物の除去は救助の一つであり(災害救助法4条1項10号,同施行令2条2号),泥出し作業について,この救助を適用して,作業に慣れた土木作業員等の専門的・職業的人材の応援を得て対応することができます。過去の水害でも活用例があります。

そこで,今回の被災地でも,ボランティアを募集して市民の善意に頼るだけではなく,災害救助としての泥出しを積極的に行い,業務を専門的・職業的作業員等に委託し,まだ,泥出しに必要な道具の調達を早急に行っていただきたく存じます。

 

6 仮の住宅の早期確保を 

避難所での生活は,できる限り早期に終了させて一応の安心が確保できる仮の住まいを整備するべきです。応急仮設住宅を建築する際は,私有地賃借による用地確保,コミュニティ重視,生活に配慮した建物の仕様など,数多くの教訓が蓄積されていますので,民間専門家の助言を得る等して,これらを活かした対応が望まれます。
元のコミュニティの関係や居住地との地理的関係を考え,応急仮設住宅だけでなく,公営住宅の転用,民間住宅の借り上げという方法を活用すべきです。応急仮設住宅を建設するより,コスト面でもはるかに安価で,財政負担の面からも良策です。とりわけ,民間住宅については借り上げだけでなく,被災者が一般賃貸物件に入居して避難する場合,災害救助法4条2項(金銭の支給)を適用して,直接家賃補助する措置も講じられるべきです。

 

7 救助に県の積極的な関与と,他からの応援受け入れを 

災害救助の責任は都道府県にあります。必要があるときは市区町村に事務を委託することとされていますが(災害救助法13条),被害の大きさを考慮すると,本則どおり県が直接対応すべき場面も多いと思われます。

阪神・淡路大震災,東日本大震災やその後に発生した台風被害等でも,県が災害救助の直接対応した例も多々あり,それによって判断と実行が円滑に進みました。近畿圏では,府県で関西広域連合が組織され,東日本大震災でも県境を越えた支援活動が行われていましたが,他の地域の自治体の応援部隊との連携を図る上でも,また,被災した隣接県相互の連携を図る上でも,県の積極的関与を全面に押し出して頂きたく存じます。

 

8 通常災害の国庫負担率引き上げの要望を 

災害救助法が効果的に活用されれば,多くの生命が救われ,被災者の不安も相当改善されるはずですが,制度の理解が十分でない被災自治体では,一般基準の範囲内で救助し,それを超える救助に躊躇する傾向が見受けられます。過去の例では,物資の供給不足,避難所運営のまずさ等の課題が尾を引いて,その後の復旧・復興に悪影響を及ぼす傾向がありました。

被災現場で積極的な救助に踏み切れない理由は,災害救助法21条における国庫の負担基準の負担率によるところが大きいと思われます。しかし,多くの場合は特別基準が設定されますし,また,自治体負担分については特別交付税等が措置される例が多く(いわゆる裏負担),躊躇をするべき場面ではありません。もっとも,懸念にはもっともな部分もありますので,災害救助の積極的活用を促している国に対し,災害救助法21条の国庫の負担割合を「百分の百」と改正し,この度の豪雨災害に適用するよう,現場となる自治体から国に要望していただくことを願います。

 

9 最後に 

今後,被災自治体の被災者への支援等は長期化が予想されます。そうした中で,被災自治体の職員等も,不慣れで緊張感の高い業務が劇的に増加して日々多忙を極め,心身ともに疲弊することが,過去の実例から確実に予想されます。

災害救助法の徹底活用により事故が減少し,長期的には事務は軽減します。災害救助と同時並行で,住家被害認定の事務も進められますが,厳格な認定を進めると多数の不服申立てを誘発し,結果的に事務の増加となります。現場に応じた柔軟な対応が被災者にも現場行政にも有益であるというのが過去の教訓です。

どうか災害救助制度を徹底活用し,速やかな復旧・復興につなげて下さい。

 

以上